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超高齢社会と認知症の関係

超高齢社会と認知症の関係

長田 乾氏
長田 乾 氏
Ken Nagata
横浜総合病院臨床研究センター
横浜市認知症疾患医療センター
センター長
※肩書きは2023年12月取材時のもの

高齢化とともに急速に増えつつある認知症患者。
日本の認知症の人の数は、2030年には830万人にもなると予測されています。
超高齢社会と認知症はどのような関係があり、どのような課題があるのでしょうか。

超高齢社会イメージ

日本は2007年から超高齢社会に
長寿社会のトップランナー

日本で少子高齢化が問題になっていることはみなさんご存知でしょう。医療の進歩により平均寿命は伸び、一方で生まれてくる子どもの数は減っていることから、労働力不足や若年層の負担増などが懸念されます。

何歳から高齢者と呼ぶかは時代や地域によって違ってきますが、WHO(世界保健機関)では65歳以上を高齢者としています。日本でも「高齢者の医療の確保に関する法律」で、65〜74歳を前期高齢者、75歳以上を後期高齢者と位置付けています。

そして総人口に占める65歳以上の人口の割合を「高齢化率」と呼び、高齢化率が7%を超えると「高齢化社会」、14%を超えると「高齢社会」、21%を超えると「超高齢社会」とされます。日本は1970年に高齢化社会となり、1994年には高齢社会を迎え、そして2007年には高齢化率が21%を超え、すでに超高齢社会に突入しています。

世界中で同じように高齢化は進んでいますが、総務省によると2022年現在、日本の高齢化率は29.1%で世界のトップです(図1)。これまで人類が体験したことのない長寿時代を、世界に先駆けて日本が経験することになるのです。

図1:主要国における高齢者人口の割合の比較

高齢者が増えると認知症患者も増える
要介護になる原因のナンバー1

高齢化が進むと、医療と介護の問題が浮き彫りになります。年齢とともに身体機能は衰え、日常生活をスムーズに送ることが難しくなる高齢者が増え介護の手が必要になります。また、脳も同じように衰えて行くことから認知症の人は増え続け、政府の試算では、2030年には830万人、2050年には1016万人に上ると予測されています(図2)。

要介護になる原因疾患として、認知症、脳出血や脳梗塞などの脳卒中、高齢により身体機能が衰えるフレイル、そして転倒・骨折などが挙げられます。2013年を境に、それまで第一だった脳卒中を認知症が逆転し(図3)、要介護となる一番の原因になっています。

図2:日本における認知症の人の数の推移
図3:「要介護」の原因疾患の推移

認知症になると記憶障害をはじめ、今までできていたことができなくなる実行機能障害、今日の日付や曜日がわからなくなる見当識障害などさまざまな症状が現れます。また、認知症の行動心理症状の一つ「徘徊」で行方不明になる人が年間1万5000人以上もいます。

2023年「認知症基本法」が成立
認知症の人が安心して暮らすために

認知症の人が増えている状況の中、政府は「共生社会の実現を推進するための認知症基本法(令和五年法律第六十五号)」を成立させました。基本理念として、全ての認知症の人が尊厳と希望を持って暮らすことができるよう、意思の尊重や認知症への理解、バリアフリー、認知症予防、認知症に関する研究の推進、医療・福祉・保険・地域づくりなどの連携などを挙げています。

認知症になっても安心して地域で暮らすことができるよう、さまざまな取り組みが進められていくでしょう。

認知症の人の数は2030年には830万人にものぼると予測されますが、そのうちの半数近くは介護保険を使わなくて済む介護認定非該当・未申請の人で、介護の手が必要となり入院や施設への入居を検討すべき要介護4〜5の人は2割にも満たないのです。
重症度によりますが、大多数の認知症の人は何らかのサポートを受けながら自宅で生活を送ることが可能です。

デイサービスなどの介護サービスを活用し適切な医療を受けることで、認知症になってもできるだけ長く自宅で暮らすことが目標といえます。また、認知症にならないため、認知・身体機能を鍛えるといった予防を心がけることも大切です。クリニック受診のための外出、ボランティアへの参加、趣味の仲間との交流も認知症予防になります。

認知症について学ぶことはなぞの多い脳の機能を知るきっかけに

認知症はさまざまな原因疾患により脳が障害を受けて発症する病気です(図4)。かなり解明されてきているとはいえ、まだわかっていないことが多いのも事実です。

例えば、家族に叱責されてばかりいる認知症患者と、家族が優しく接する認知症患者では、病気の進行に差が出ます。前者の方が、悪化スピードが早いという研究結果が出ていますが、原因はわかっていません。このような不可解な症例の原因が解明できたら、認知症治療に何らかの寄与ができるかもしれません。

図4:物忘れ外来初診患者の臨床診断

神経内科は人間の脳の機能を知ると同時に、臨床や画像診断、神経心理学など学ぶことは多岐にわたり、奥が深い学問といえます。受験生の皆さんはまだ専門を決める段階ではないかもしれませんが、ぜひ興味を持っていただきたい分野です。

物忘れ外来を初診で訪れる人の4割以上がアルツハイマー型認知症と診断されます。次いで鮮明な幻視が見えるレビー小体型認知症、脳卒中が原因の血管性認知症、初老期に発症することの多い前頭側頭葉変性症と続きます。その他の認知症では認知症を伴うパーキンソン病など、さらに認知症と正常の狭間にいる軽度認知障害(MCI)があります。

認知症の救世主?「レカネマブ」ってこんな薬

2023年、日本でも認知症治療薬「レカネマブ」が承認されました。従来の抗認知症薬が対症療法であったのに対し、レカネマブは、アルツハイマー病の原因となる脳内に溜まって神経細胞を死滅させる「アミロイドβ」という蛋白質を取り除く効果があり、症状の進行を27%抑制することから、アルツハイマー病の根本治療になると期待が寄せられています。

認知症の救世主「レカネマム」

ただし、この薬が適用されるのは、アルツハイマー病の初期・軽度認知障害で脳内にアミロイドβの蓄積が認められる人が対象。治療は2週間に1度の点滴を1年半行います。

今後も、レカネマブのような画期的な治療薬の登場が待ち望まれています。

Profile

長田 乾(Ken Nagata)
神奈川県生まれ。弘前大学医学部卒。脳血管研究所美原記念病院神経内科、コロラド大学神経内科、秋田県立脳血管研究センター神経内科学研究部などを経て2016年より横浜総合病院臨床研究センター長、2020年より横浜市認知症疾患医療センター長。『認知症になりにくい人・なりやすい人の習慣』(Gakken)など著書多数。

掲載冊子

こちらの記事掲載冊子は「ForMマガジン 03」です。

※2023年12月時点の取材内容

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