医療の世界で社会に貢献したい―。
純粋なその想いを胸に、医学部受験を乗り越え、医学生として学び、患者さんのために今、それぞれの分野で活躍する先輩たち。先輩たちはどうして医療の道をめざしたのか。どのような大学時代を過ごし、医療人としてどのようにキャリアを重ねていったのか。第一線で活躍されている先生に、貴重なお話を伺いました。
IVR(画像下治療)に衝撃を受けて、放射線科医を目指す
X線や超音波、CTなどの画像診断装置を見ながら、体内にカテーテルや穿刺針を挿入して出血や悪性腫瘍、血管の病気などを治す治療法、それがIVR(Interventional Radiology=画像下治療)である。愛知医科大学医学部放射線医学講座の鈴木耕次郎教授はこのIVRの権威者として知られる。
「学生時代(金沢大学医学部)、臨床実習で放射線科をローテーションしたとき、画像診断や体を切らずにがん治療をするなど、面白いことをしている科だなと思いました。とりわけ興味を抱いたのが、IVRです。患者さんの負担を軽減する低侵襲の治療法で、血管の病気や腫瘍性病変など様々な疾患の治療を行う。まさに衝撃的でした。すごい治療法があるんだなと」
鈴木教授はIVRとの出会いについてそう振り返りつつ、さらに言葉を続けて「当時、IVR はまだ発展途上で、治療法がこれからどんどん進化していく可能性を秘めていました。それを研究し、治療技術を身につけたいと思って放射線医学の道を選びました。消化器外科も選択肢の一つとしてありましたが、最終的にIVRの将来性に魅力を感じたのが決め手となりました」と、放射線科に進んだ動機について語る。
金沢大学医学部を卒業した鈴木教授は、名古屋大学大学院医学系研究科に進み、放射線医学の研鑽を積む。そして博士課程修了後、2002年から名古屋大学医学部附属病院で放射線科医として腕を振るうようになった。
ドイツへ留学し、IVRの腕を磨く
そうした中、鈴木教授は当時の名古屋大学医学部放射線医学講座の石垣武男教授から、「海外へ行って腕を磨いてこないか」といわれ、2004年にドイツのアーヘン工科大学医学部附属病院へ客員医師として半年間、留学する機会を得た。アーヘンはドイツ最西端に位置し、ベルギー、オランダとの国境に近接している都市である。アーヘン工科大学は、“ドイツ第一の工科大学”と評されているように名門の大学だ。
「その頃、僕はIVRに積極的に取り組んでいましたが、画像診断装置の進歩はめざましく、カテーテルやガイドワイヤー、ステントなどの医療機材も年々進化し、国内ではまだ使用されていないものも少なくありませんでした。ドイツ留学では、そうした最新の装置や機材を活用してIVRを行うことにより、新たな知識や技術を吸収することができました」と、鈴木教授は留学の成果を語る。
また、「新しい医療機材が出てくると、それに即した治療法を考えたり、より低侵襲で効果的な治療を目指そうとしたりします。日進月歩の医療の世界で、とりわけIVRに関してはそのスピードが速いといえますので、チャレンジ精神がどんどんわいてきますね。将来性があると見込んだのはやはり間違いではありませんでした」と、IVRの魅力と可能性について言及する。
テレビドラマが、放射線科の魅力をクローズアップ
ところで、「ラジエーションハウス」というテレビドラマを見た人も多いことだろう。“放射線科の診断レポート”というサブタイトルがついたこのドラマは、文字どおり診療放射線技師と画像診断を行う放射線科医の活躍を描いたもので、2019年にシリーズ第1作(全11話、特別編1話)、2021年にシリーズ第2作(同)が放映された。また、今年4月には「劇場版ラジエーションハウス」も公開され、大ビットとなった。
IVRのほか、腹部の画像診断も専門領域としている鈴木教授は、「僕も『ラジエーションハウス』はよく見ていました。放射線科を舞台にしたドラマだけに親近感がわき、とても興味深く視聴しました」と語る。
「僕たちがやっている画像診断というのは、人体の中の異常や影を、身体を傷つけることなく調べて適切な診断・治療に導くのが仕事です。診断の過程において、小さな病変を見つけたり、腫瘍が良性か悪性か、遠隔転移があるかないかなどを見極めたりするのが醍醐味といえるでしょう。放射線科は、中央診療部門として他の診療科をサポートする立場ではありますが、病院にとってなくてはならない部門です。それだけに、やりがいがあります」
そして、「放射線科にスポットを当てた『ラジエーションハウス』のおかげで、画像診断に対する一般の人たちの理解が深まったのではないかと思っています。僕らにとってもモチベーションが上がりますし、放射線科を目指す人が増えてくれればなお嬉しいですね」と、ドラマや映画の効果に期待を寄せる。
画像診断は医師として必要な知識なので、学生には分かりやすく教えています。
すべては患者さんのために、という姿勢が基本
鈴木教授は2017年に名古屋大学から愛知医科大学へ転じた。そのときに感じた愛知医科大学の印象は、「教育にとても熱心な大学」というものだった。
「シミュレーションセンターをはじめとした実習の設備が充実していて、それらを目にしただけで教育熱心であることが十分に伝わってきました。そうしたリソースをうまく活用して、学生が分かりやすく、興味を持ちやすいようにカリキュラムが組まれているのにも感心しました。そしてなによりも、教員の熱意がひしひしと感じられる。自分がそれまでやってきた医学教育ではダメだなと思い知らされましたね。それからだんだんと僕も愛知医科大学のカラーに染まってきました」
ちなみに、シミュレーションセンターは鈴木教授が赴任してくる2年前の2015年に開設され、2019年にはそのスペースが470㎡から700㎡に拡大されるなど、より充実した施設となっている。
鈴木教授が医師を志したのは、「人のために役立つ職種に就きたいというのが動機でした」という。これから医師を目指そうという受験生にも、「すべては患者さんのために、という姿勢を基本にしてほしいと思います。僕は授業や臨床実習でも、そういうことを最も大切にしながら行っています。そのためにも、患者さんとうまくコミュニケーションをとれる医師になってほしいですね」
最後に鈴木教授は、「これまで自分が培ってきた技術や研究を若手に継承していくとともに、放射線科医を志す人が増えてくれるようもっと放射線科の魅力をアピールしていきたいですね」と抱負を語ってくれた。
放射線医学の面白さを若い人たちにもっと知ってほしいですね。
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※2022年6月時点の取材内容
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