医学部受験情報サイト

医療人を志す人が集まる場所

私立医科大学独自のカリキュラムで医師の資質を育む

私立医科大学独自のカリキュラムで医師の資質を育む

小川 彰
Akira Ogawa
日本私立医科大学協会 会長

※肩書は2023年11月取材時

明治初期に私立の済生学舎ができたときから現在に至るまで、私立医科大学は国民に寄り添う医療を実践し、地域医療に注力してきました。
そんな私立医科大学の特徴と魅力、そして、受験生の皆さんが将来医師になったときに期待することなどについて、日本私立医科大学協会会長の小川彰氏にお聞きしました。

明治期には、私学が開業医の過半数を養成

—— 私立医科大学創設の経緯と意義について教えてください。

小川 1874(明治7)年に公布された「医制」で、医術開業は免許制となることが定められ、翌年から医術開業試験が始まりました。この試験の予備校的存在として全国各地に多くの県立医学校ができ、1876(明治9)年に、長岡藩の家老の主治医だった長谷川泰が私立の済生学舎(日本医科大学の前身)を創設しました。一方、帝国大学医科大学(東大医学部)などの官立学校の卒業生はこの試験を受けなくても免許が与えられました。
明治時代には1894(明治27)年に日清戦争、1904(明治37)年に日露戦争と2つの戦争が起こります。そんな時代に政府が「税金を使って医学教育をすることはまかりならぬ」という方針をとったため、明治20年代後半には、官立以外のほとんどの医学校がなくなりました。1897(明治30)年に残っていた私学は済生学舎、成医会講習所(東京慈恵会医科大学の前身)、岩手医学講習所(岩手医科大学の前身)、私立熊本医学校の4校だけでした。
当時の文部省が私立の医学校に圧力をかけたため、長谷川泰は1903(明治36)年に済生学舎を廃校し、長岡に帰ってしまいました。東京帝国大学医学部は1学年約100人でしたが、済生学舎は野口英世など28年間で9000人以上もの医師、医学者を輩出した学校です。当時の日本の開業医の半数以上を済生学舎出身者が占めていましたので、その後の地域医療は、崩壊の危機の憂き目にあうことになります。これは今も同じです。官立は少数で能力ある医者を作ろうとしますが、それでは地域医療が回っていきません。それをカバーしてきたのが私立です。

コロナ患者の2/3を 私立大学病院が受け入れ

現在でもそのことを如実に示すのが、世界的な脅威となった「新型コロナウイルス感染症」での患者受入れ総数です([図1][図2]参照)。私立医科大学病院の受入数は、2023年4月末の時点で全体の約3分の2にもあたります。これを見ると、国民の医療を守っているのは私立であると言えます。明治時代から現在まで、学生の教育を第一の目標に掲げるとともに、地域医療にも力を入れてきたのが私立医科大学なのです。

—— 私立医科大学の目的、使命について教えてください。

小川 大学には学則がありますが、国立大学の第一条はどの大学も基本的に同じです。一方、私立大学は大学ごとに独自の学則を制定しています。たとえば私が理事長を務める岩手医科大学では、第一条の最初に「本学の目的は、医学教育、歯学教育、薬学教育及び看護学教育を通じて誠の人間を育成するにある」と明記しており、人間性の涵養を第一義にあげ重視しています。
このように私立の各大学が、地方の実情に合わせてどのような医療を行えばいいかを考え、設立の理念に基づいて学生教育や病院運営を行っています。大学ごとに独自性はありますが、国民に寄り添う医療人を育成し、地域医療を守っていかなくてはならないという思いが根底にあります。

新型コロナ患者受け入れ総数
[図1]新型コロナウイルス感染症患者受入れ総数(2023年4月30日現在)

新型コロナ受入れ総数の推移
[図2]新型コロナウイルス感染症患者の受入れ総数の推移について(累計)

※ 図1・図2ともに[私立医科大学協会調べ]をもとに作成

独自のカリキュラムで人間性の涵養をはかる
面倒見の良さも魅力

—— 私立医科大学の魅力をお聞かせください。

小川 私立大学は各大学がそれぞれの理念に基づきアイデアを出し、さまざまな工夫をして、チーム医療、地域医療などに力を入れた独自のカリキュラムを作成しています。受験生のみなさんにとっては、志望校を選ぶときの選択肢が広がると言えるでしょう。
チーム医療といえば、岩手医科大学の創立者・三田俊次郎は、医療の貧困で感染症が流行していた1897(明治30)年に、私立岩手病院を創設し、医学講習所と産婆看護婦養成所も併設しました。国が産婆規則を制定したのが1899(明治32)年、看護婦規則を制定したのが1915(大正4)年ですから、それ以前に医師だけではなく、産婆(助産師)、看護婦(看護師)も養成する必要性を感じていたのです。当時はまだ、「チーム医療」という言葉がありませんでしたが、今考えるとチーム医療の先駆けだったと言えます。現在は医、歯、薬、看護の4学部の学生が同じ建物で学び、学部を超えてディスカッションする授業もあります。
同様に、他の私立大学も医学部医学科だけではなく、看護、薬、理学療法、作業療法など医療の他職種も養成するところがほとんどです。学生時代からチーム医療の下地ができ、さまざまな経験ができるのは大きな魅力です。

—— 全寮制の大学もありますね。

小川 私立大学には6年間全寮制の自治医科大学、1年次に全寮制の昭和大学、岩手医科大学、順天堂大学、川崎医科大学があります。寮生活を通じてコミュニケーション能力が鍛えられ、医師に必要な資質を育てることができます。
寮同様、人間性を高められるのがクラブ活動です。国公立大学よりも私立大学の方が活発に活動していると感じます。ここ数年はコロナ禍で思うように活動できませんでしたが、クラブ活動を通じて社会性を涵養することができ、教育にもいい影響を与えています。先輩から大学生活や勉強のアドバイスを受けたり、社会人としてのあり方などを教えてもらえたりするのは貴重な機会です。全学部、全学科が参加できるクラブでは、活動を通じて他職種への理解も深まります。

—— 医師国家試験(以下、国試)の対策などは、どうでしょうか。

小川 私立大学は学生への面倒見が大変いいですね。国公立は国試対策にあまり熱心ではないようですが、私立はほぼ全大学で国試対策が充実していて、マンツーマンで教えるなど、教員も熱心です。きちんとした結果を出すために、大学が国試対策を実施していることは、学生にとってありがたいことだと思います。
また、勉強だけではなく、生活面などでも手厚くケアしていますし、患者さんやご家族の痛みや苦しみを理解できる、心ある医師になるための人間教育にも力を入れています。

将来、自分が診る患者さんのために学ぶ

—— 受験生が将来医師になったときに期待することをお聞かせください。

小川 日進月歩の医学は、どんどん新しい知見が加わります。10年たてば今の医学常識や医療技術は一昔前のものとなってしまいます。大学で学んだら終わりではありません。勉強だけではなく、将来医師になったときにどうすればいいか、という「勉強のやり方」を学ぶことが重要です。そのやり方で一生学び続け、学会に出席したり、セミナーに参加したりして、新しい知識を獲得することが大切なのです。
2004年から新しい臨床研修制度が始まり、研修医が大学に残ることが少なくなりました。専門医の資格取得のため3年目に大学に戻ってくる傾向ですが、「今の医学・医療があるのは研究があってこそ」だということを忘れないでほしいと思います。近年は留学する医師が激減し、国からの研究費も減り、日本の医学研究は停滞しています。夜間の大学院もありますから、研修が終わった後などに研究することをお勧めしたいと思います。

—— 最後に、医学部を目指す受験生へのメッセージをお願いします。

小川 私は入学式などで「あなたたちが勉強しないと、患者さんに迷惑をかける」という話をよくしています。入学したら大切なのは、「将来、患者さんを診る」という心構えと「患者さんを治したい」という強い想いです。これらがあれば、医学の勉強をするモチベーションになりますし、受験勉強を頑張る原動力にもなると思います。
医学部では入学時の成績と卒業時の成績は必ずしもリンクしません。医学に対する思い入れ、苦しんでいる患者さんをどうにか治したいなどの心構えがある学生の成績は、入学後に飛躍的に伸びます。

 受験生におすすめの本を紹介していただきました。

『まんが岩手人物シリーズ 後藤新平』
原作:泉 秀樹/作画:小田 悦望/岩手日報社

小川 彰 氏のおすすめBookの記事はこちら

Profile

小川 彰(Ogawga Akira)
おがわ あきら

1949年宮城県生まれ。1974年岩手医科大学医学部医学科卒業。同年、東北大学医学部付属脳疾患研究施設脳神経外科入局。1988年に東北大学医学部助教授に就任。1991年米国アリゾナ大学バロー神経研究所に留学。1992年に岩手医科大学脳神経外科学講座教授。2003年に岩手医科大学医学部長、2008年に岩手医科大学学長に就任。2012年に岩手医科大学理事長に就任し、現在に至る。
学外活動として、元全国医学部長病院長会議会長、元日本医学会幹事、元日本学術会議連携会員、元厚生労働省医道審議会医師分科会医師臨床研修部会委員、元日本脳卒中学会理事長、元日本脳神経外科学会常務理事、岩手県対がん協会理事長、岩手県医師会副会長などを務める。
2024年3月にご逝去されました。

詳細はこちら
一般社団法人日本私立医科大学協会

掲載冊子

こちらの記事掲載冊子は「ForMマガジン 03」です。

※2023年11月時点の取材内容

掲載冊子をお求めの方は、お問い合わせフォームよりご連絡ください。
数に限りがございますので、在庫状況によりご希望に添えないことがございます。
あらかじめご了承ください。

お問い合わせフォームへ

UNIVERSITY INFO

岩手医科大学
Iwate Medical University
学部の垣根を越えた、
総合医療の学び

情報CLOSE-UP!

2025年度一般選抜について

1次試験会場は全国に6会場、
2次試験(面接)は、本学以外に東京と大阪の会場で実施します。

岩手医科大学
学部の垣根を越えた、
総合医療の学び

情報CLOSE-UP!

2025年度一般選抜について

1次試験会場は全国に6会場、
2次試験(面接)は、本学以外に東京と大阪の会場で実施します。

TOP