医療の世界で社会に貢献したい―。
純粋なその想いを胸に、医学部受験を乗り越え、医学生として学び、患者さんのために今、それぞれの分野で活躍する先輩たち。先輩たちはどうして医療の道をめざしたのか。どのような大学時代を過ごし、医療人としてどのようにキャリアを重ねていったのか。第一線で活躍されている先生に、貴重なお話を伺いました。
阪神・淡路大震災に遭遇した医学生時代
愛知県刈谷市で医師の両親のもとに育った兵庫医科大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科の都築建三教授。2人の兄も医学部に進学したことから、「家族の中で1人だけ違う道へ進むと居づらくなるのではないか」と、自身も医学部を志望し、兵庫医科大学に入学した。兵庫医科大学を選んだのは、「愛知県からの交通の利便性と、大学周辺の恵まれた気候や環境」という理由からだった。
小・中学校時代にサッカーをやっていたこともあり、大学ではサッカ一部に入部した。ところが半年後に腰を痛め(椎間板ヘルニア)、手術をすることに。入院先はもちろん兵庫医科大学病院である。「親からは、医学部に入ったおかげで、大学病院で治療を受けることができ、幸運だったと言われました。当時は1人暮らしで自炊をしていましたが、入院中は食事の用意をする必要がないので大いに助かりました。歩けるようになってからは、病棟からキャンパスへ向かい、授業を受けてまた病棟に戻る、という生活をしばらく送っていましたね」
都築教授は大学5年のポリクリ(病院実習)学生のときに、阪神・淡路大震災(1995年1月17日)に遭遇した。「地震後2ヵ月間は休校。6年生になって再開されましたが、病院自体がそれほど機能していなかったこともあり、先生方と西宮市内の小学校の体育館へ薬を届けたり、大学の図書館の片付けや書籍の整理などを行ったりしていました。そんなポリクリ生活でしたが、災害が発生したときは人を助けてあげられる医師になるべきだと痛感しました」
カンファレンスルームでの症例検討
五感や脳神経を扱う医師を目指し、耳鼻咽喉科に入局
大学卒業後、都築教授は兵庫医科大学病院の耳鼻咽喉科に入局。「医学を勉強していくうちに、五感や脳神経を扱う医師になりたいと思うようになりました。首から上の部位は狭いにも拘わらず、五感が集中していて診療のフィールドが極めて広い。しかも、内科と外科の両側面がある。そこが大きな魅力でした。とりわけ、僕は鼻に興味がありました。鼻は嗅覚器官であるとともに、息の通り道であり、掃除機能も備えている。花粉症で鼻づまりを実感していたことも、鼻に関心を抱いた要因です」
そして、研修医時代に副鼻腔炎の手術患者を担当し、膿がきれいに取り除かれていくのを目の当たりにしたのが、鼻の疾患を専門分野とすることを決定づけた。
研修医生活を終えた都築教授は大学院へ進み、3年間、疼痛分野の基礎研究に励んだ。その後、米国フロリダ大学へ留学する機会を得て、2年余り現地で研究生活を送った。「米国留学は僕にとってターニングポイントの一つでした。研究は自分でテーマを決めてトライできますので、臨床より楽しい面がありますが、留学中は研究の世界の厳しさ、大変さをたたき込まれました」
嗅覚障害の診察で活躍している「日常のにおいアンケート」
米国留学から帰国し関連施設に赴任した後、兵庫医科大学耳鼻咽喉科に戻った都築教授は、鼻科領域を専攻して臨床で腕を振るうようになった。とりわけ、日本鼻科学会・嗅覚検査検討委員会において、容易に嗅覚を評価できる指標として「日常のにおいアンケート」の考案に携わったことが特筆される。これは、日本人の生活で馴染み深い「炊けたご飯」「味噌」「海苔」「醤油」など20種類のにおいについて、「わかる」「時々わかる」「わからない」「最近かいでない、かいだことがない」の4段階で答えてもらい、嗅覚障害があるか否かをスコアで表示するというすぐれものである(別掲参照)。
「我々は『日常のにおいアンケート』の普及に努め、嗅覚障害の統計学的検討を行っています。最近では、新型コロナウイルス感染症における嗅覚障害の評価にも一役買っています。嗅覚障害は認知症のバロメーターの一つでもありますので、『日常のにおいアンケート』の果たす役割はますます高まっていくでしょう」
厚生労働省の指定難病である好酸球性副鼻腔炎や新型コロナウイルス感染症の初期において、嗅覚障害が生じることが広く知られている。都築教授は、これらのメカニズムを解明すべく厚生労働省事業である難治性疾患政策「好酸球性副鼻腔炎における手術治療および抗体治療患者のQOL評価と重症化予防に関する研究班(2022年)」、「新型コロナウイルス感染症による嗅覚、味覚障害の機序と疫学、予後の解明に資する研究(2020年)」のメンバーとして名を連ね、研究に貢献している。「国の研究事業に参加するのはたいへん名誉なことであり、任務を果たしていけば兵庫医科大学が他の大学からも一目置かれる存在になっていくと思います」
嗅覚・味覚専門外来を設けているのが、兵庫医科大学の大きな特徴です。
将来の夢を描いていれば、苦しいことがあっても乗り越えていける
兵庫医科大学は2022年に開学50周年を迎え、兵庫医療大学と統合して医学部のほか薬学部、看護学部、リハビリテーション学部を擁する西日本有数の医系総合大学として生まれ変わった。都築教授は、「総合大学になったことは大きなアピールポイントであり、多職種連携教育がより充実してきました。このことはチーム医療の発展をもたらし、ひいては患者さんのQOL(生活の質)向上にもつながっていくはずです」と兵庫医科大学の良さを強調する。
都築教授は、「人は心(We are human) 」をモットーとしている。「我々医師は人間を相手にしていますので、心を持って接する必要があります。電子カルテになるのはいいとしても、患者さんと向き合わずパソコンの画面を見ながらキーボードを打ち、『薬を出しておきますね』などと対応しているのでは気持ちが伝わらず、医師とは言えません。Web会議なども便利ではありますが、対面ほどの心は通じない。朝起きて家族と話す前にスマホを見るようなデジタル社会になっているからこそ、心を大切にしなければなりません」そう語る都築教授は、医学部を目指す受験生に次のようなメッセージを送る。
「将来の夢を描いておくこと、それがとても重要です。医学部に入ることが夢というのでは、入ったときが頂点で、あとは下降線を辿るということになりかねません。サッカーの長友選手は中学生のときから『日本代表になって活躍する』という夢を抱いて練習に励んだそうです。夢や目標を持っていれば、苦しいことがあってもブレることなく乗り越えていけるのではないでしょうか」
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※2023年6月時点の取材内容
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