発表のポイント
・新型コロナウイルス感染症(COVID-19)流行下の2020年において、世帯所得が低い高血圧患者の19.6%が定期受診を控えており、これは対照群の8.8%と比較して有意に高かった。
・世帯所得と定期受診控えの関連は特に女性において顕著であり、低所得群では対照群と比較して、定期受診を控えるリスクが3.14倍高かった。
・2021年以降、世帯所得による定期受診控えの差は解消されていた。
・特に公衆衛生上の緊急事態による社会活動制限が課された直後、低所得層の医療アクセスを低下させない対策が必要である。
研究概要
COVID-19の流行とそれに伴う公衆衛生対策は、世界中の人々の生活に大きな影響を与えました。日本でも2020年4月に発令された緊急事態宣言下では、多くの人々が医療機関への受診を控え、特に世帯所得が低い患者ほど持病の定期受診を控える傾向があることが報告されました。しかし、特定の疾患における世帯所得と受診控えの関連や、その後の推移については十分に調査されていませんでした。本研究では、日本において4300万人が罹患していると推計される「高血圧」に焦点を当てて受診控えの状況を調査したものです。
研究グループは、全国規模のインターネット調査である「日本におけるCOVID-19問題および社会全般に関する健康格差評価研究(JACSIS研究)」のデータを用いて、治療中と回答した高血圧患者2,832名を対象に、世帯所得と定期受診控えとの関連を分析しました。世帯所得は、世帯人数で調整した等価世帯年収を用い、318.2万円(中央値)未満を低所得群、318.2万円以上を対照群として分析を行いました。
分析の結果、2020年において低所得群の19.6%が定期受診を控えていたのに対し、対照群では8.8%でした。この差は、年齢、性別、教育歴、雇用状態、COVID-19への不安度などの要因で調整しても統計学的に意味のある差でした。このことから、治療中の高血圧患者において経済状態そのものがコロナ禍の受診控えにつながったことが示唆されています。
特筆すべき点は、世帯所得と定期受診控えの関連は女性において特に顕著であったことです。女性の低所得群は対照群と比較して、定期受診を控えるリスクが3.14倍高く、これは男性(1.21倍)と比べても明らかに高い値でした。これには、COVID-19流行下で女性の家事・育児負担が増加したことが影響している可能性があります。
一方で2021年以降、高血圧受診控えは大きく減り、世帯所得の影響も消失しました。この変化から、緊急事態制限などの社会活動制限が、治療中高血圧患者の受診行動に大きな影響を与えていたことが分かりました。
論文名
タイトル:Association between equivalized annual household income and regular medical visits for hypertensive patients since the COVID-19 outbreak
掲載誌:Hypertension Research(電子版)
DOI:10.1038/s41440-024-02067-x
著 者
遠山 真弥、佐藤 倫広、橋本 英明、岩部 悠太郎、八木橋 崇仁、中山 晋吾、 村上 任尚、中谷 直樹、目時 弘仁、寳澤 篤、田淵 貴大
研究の詳細・お問い合わせ先
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データ提供:東北医科薬科大学