【概要】
川崎医療福祉大学 リハビリテーション学部 視能療法学科の細川貴之教授、川崎医科大学健康管理学教室 鎌田智有教授、勝又 諒医師(元同大学健康管理学教室 講師)らの研究グループは、過敏性腸症候群(IBS)患者と機能性ディスペプシア(FD)患者を対象 とした研究により、仮想現実(virtual reality: VR)空間での精神的ストレス場面に おいてIBS 患者の脳活動が健常者やFD患者と異なることを明らかにしました。本研究成果は、日本時間の2月24日(月)に、消化器病学分野の国際的な学術誌「Journal of Gastroenterology」に掲載されました。
【研究の背景】
過敏性腸症候群(IBS)は、日本人の約10人に1人が罹患する一般的な疾患です。ストレスなどによって引き起こされる腹痛や下痢などの症状により患者のQOL(生活の質)を低下させ、不登校や休職等の社会的損失にもつながっています。しかし、通常の医療検査では異常が見つからないため、「気のせい」「仮病」などと誤解を受けやすく、患者は二重の苦しみを抱えています。また、専門家や研究者も少なく、 病気のメカニズムには不明な点が多く残されています。これまでの研究で、バルーンを用いた大腸伸展刺激時のIBS患者の脳活動が健常者と異なることなどは、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)などを用いて脳を評価することで確認されてきました。しかし、日常的なストレス状況における脳活動の測定や、より簡便で負担の少ない検査方法の開発が求められていました。
【研究方法】
研究グループは、VR技術を用いて精神的ストレス場面を作り出し、その際の脳活動を機能的近赤外分光法(fNIRS)で測定するという手法を開発しました。fNIRSは、簡便に脳の活動を測定できる赤外線を使用した非侵襲的な検査手法です。比較的自由な姿勢で測定可能で、fMRIと比べて大がかりな設備は不要な上、約100分の1のコストで導入可能であり、より多くの医療機関での実施が期待されています。具体的には、参加者にVRゴーグルを装着してもらい、教室での登壇場面を体験してもらいました。
①「誰もいない場面」「聴衆がいるが注目はされていない場面」「聴衆全員から注目され ている場面」という3段階の緊張場面を設定。
②各場面を30秒間、2回ずつ体験してもらい、その際の脳血流の変化を測定。
③同時に、心拍変動による自律神経反応の測定と、主観的なストレス評価も実施。
【研究結果】
- IBS 患者における特異的な脳活動パターンを発見 VR 空間での精神的ストレス場面において、IBS患者の脳では健常者やFD患者には見られない特徴的な活動パターンが観察されました。具体的には、左腹外側前頭前野での活動亢進と、左背外側前頭前野での活動低下です。
- 精神的ストレスの客観的評価に成功 VR 空間での緊張場面において、全参加者で高い主観的ストレス評価値と自律神経反応の変化が確認され、VRを用いて心身共に十分な精神的ストレスを再現しつつ、その状態で脳活動を測定することに成功しました。
【考察と今後の展望】
本研究の最大の成果は、IBS患者の精神的ストレスによる苦痛を、脳活動という客観的なデータで示せた点です。これにより、IBSは「気のせい」ではなく、実際に脳の反応が健常者と異なる病気であることが科学的に証明されました。この研究によって、患者の苦痛の「見える化」が実現し、社会的理解の促進が期待されます。また、fMRIより手軽なfNIRSを用いた検査方法の確立により、より多くの医療機関での診断が可能になるとともに、新たな治療法開発にもつながると考えられます。
○発表雑誌
雑誌名:Journal of Gastroenterology (オンライン版・2025年2月24日掲載)
論文タイトル:Brain activity during a public-speaking situation in virtual reality in patients with irritable bowel syndrome and functional dyspepsia
著者(#は責任著者):#Ryo Katsumata, Takayuki Hosokawa, Noriaki Manabe, Hitoshi Mori, Kenta Wani, Minako Kimura, Shintaro Oda, Katsunori Ishii, Tomohiro Tanikawa, Noriyo Urata, Maki Ayaki, Ken Nishino, Takahisa Murao, Mitsuhiko Suehiro, Minoru Fujita, Miwa Kawanaka, Ken Haruma, Hirofumi Kawamoto, Toshihiro Takao, Tomoari Kamada. *These authors contributed equally to this article
DOI:https://doi.org/10.1007/s00535-025-02228-w
<問合せ先> 広報について
川崎医科大学 庶務課 課長 浅沼 淳 Tel:086-462-1111(代)
<問合せ先> 研究について
・川崎医療福祉大学 リハビリテーション学部 視能療法学科 教授 細川貴之(ほそかわ たかゆき)
Tel:086-462-1111(代) e-mail:t-hosokawa@mw.kawasaki-m.ac.jp
・元 川崎医科大学 健康管理学教室 講師 勝又 諒(かつまた りょう)
e-mail:katsumata@med.kawasaki-m.ac.jp
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データ提供:川崎医科大学