~地域特有の健康課題を特定し、若い世代に向けた健康教育の必要性が明らかに~
東京慈恵会医科大学地域連携看護学実践研究センター(Jikei Academic Nursing Practice Center for the Community : JANPセンター)ニーズ・リソース・マッチンググループの志村友理らは、地域特有の健康課題を特定するため、調布市・狛江市におけるヘルスリテラシー(健康や医療に関する正しい情報を入手し、理解して活用する能力)、QOL(Quality Of Life:生活の質)、健康行動を調査しました。その結果、若い世代ほど自身の健康への関心が低く、健康的な行動を実践しない傾向にあり、QOLも低いことを明らかにし、若い世代に向けた健康教育の必要性が示唆されました。この知見は、地域全体の健康づくりの推進に役立つと考えます。 本研究は、2024c年7月11日にPublic Health Nursing誌に掲載されました。また、本成果を8月19日・20日の日本看護学教育学会第34回学術集会にて発表しました。
<調査結果のポイント>
調布市・狛江市在住・在勤者のうち、
• 「若年層」「世帯収入200万円未満」に該当する方はヘルスリテラシーが低い傾向にありました。
• 「若年層」「未就学児子育てあり」「同居家族がいる者」「世帯収入200万円未満」に該当する方はQOLが低い傾向にありました。
• 「睡眠が十分でない」と回答した割合が全国平均よりも高く、「若年層」「未就学児子育てあり」に該当する方は不規則な食生活などの割合が高い傾向にありました。
以上のことから、特に若い世代に向けた健康教育を実施する意義が示されました。
JANPセンターは、調布市狛江市地域で暮らす方々の健康と生きる力を看護の力で支える活動の場として開設され、地域住民の皆様と連携し活動を続けています。今回、JANPセンターが対象とすべき健康・医療・子育て・介護に関する地域の不安や困りごとを明確にするため、本研究を実施しました。
本研究は、2023年度看護学科特別研究費の助成を受けたものです。
研究の詳細
- 背景
昨今、地域の健康を支援する概念として、ヘルスリテラシーが注目されています。ヘルスリテラシーとは、健康や医療に関する正しい情報を入手し、理解して活用する能力です(WHO)。健康行動やQOLの向上はヘルスリテラシーと関連しており(Berkman,2011)、欧米に比べ日本のヘルスリテラシーは低いことが報告されています(Nakayama,2015)。また、ヘルスリテラシーには、基本属性や居住地域による差が存在することも知られており(笠原他、2021)、各層のニーズに適した支援が求められています。
しかしながら、これまで調布市・狛江市においてヘルスリテラシー・健康行動・QOLについて広い年齢層を対象とした実態調査は行われていませんでした。 - 研究方法
2023年9月~10月、18歳以上の調布市・狛江市に在住・在勤者を対象にインターネットを利用し調査を実施しました。調査内容は、ヘルスリテラシー、健康行動、QOL、基礎情報(性別、年齢等)について回答を得ました。分析は、χ2検定および共分散分析を行いました。本研究は所属機関の倫理委員会の承認を得て実施しました。 - 研究成果
調布市1170名、狛江市350名の合計1520名を分析対象としました。
ヘルスリテラシー(HL)
若年層(20歳代~30歳代)、世帯収入200万円未満の者はHLが低くなりました(η2=0.03, p < .01)。
健康行動
「睡眠が十分でない」と回答した割合(男性43%、女性47%)が、全国平均(男性34.6%、女性37.8%)よりも高くなりました。
若年層は、夕食が遅い、夕食後の間食、よく眠れない、健康診断を受けていない傾向がみられました。また、未就学児がいる場合、不健康な食生活(早食い、夕食が遅い、夕食後の間食)、喫煙、飲酒の割合が高くなりました。
生活の質(QOL)
若年層(20歳代;η2=0.04, p < .01)、未就学児子育てあり(η2=0.01, p < .01)、同居家族がいる者(η2=0.01, p < .01)、世帯収入200万円未満の者(η2=0.02, p < .01)においてQOLが低くなりました。 - 今後の展開
若年層においてHLが低いことは、就労、育児といったライフイベントが重なる世代であり、自身の健康に対する興味・関心が低い可能性が考えられます。そのため、若年層のヘルスリテラシーを高め、健康行動を促すための健康教育の必要性が示唆されました。JANPセンターでは、本調査結果をもとに“若い世代の健康”に着目し、女性やカップルを対象として将来の妊娠のための健康管理を促す「プレコンセプションケア」をテーマに活動を推進していきます。
論文情報
掲載誌名: Public Health Nursing
タイトル: Cross-sectional study to identify health literacy, health behavior, and quality of life in Chofu and Komae cities in Japan: Formative research in community based nursing practice
URL: https://doi.org/10.1111/phn.13384
著者: 島崎崇史 東京慈恵会医科大学医学部医学科環境保健学講座
志村友理 東京慈恵会医科大学医学部看護学科在宅看護学
大橋十也 東京慈恵会医科大学医学部看護学科健康科学
中村英輝 東京慈恵会医科大学医学部看護学科精神看護学
浅川友祈子 東京慈恵会医科大学医学部看護学科母性看護学
高橋衣 東京慈恵会医科大学医学部看護学科健康科学
【本研究内容についてのお問い合わせ先】
東京慈恵会医科大学地域連携看護学実践研究センター
ニーズ・リソース・マッチンググループ 講師 志村友理 電話 03-3480-1151(代)
【報道機関からのお問い合わせ窓口】
学校法人慈恵大学 経営企画部 広報課 電話 03-5400-1280 メール koho@jikei.ac.jp
以上
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データ提供:PressWalker
調布市・狛江市におけるヘルスリテラシー、QOL、健康行動に関する横断調査